Ⅰ 臨床倫理の基本方針
- 医学的適応を確認し、最良の医療を行います。
- 患者の意思を尊重します。
- 生活の質(QOL)まで考慮に入れた治療を提供します。
- 患者を取り巻く状況を把握します。
- 倫理委員会および治験審査委員会での審議結果に従った医療を提供します。
Ⅱ 具体的な倫理的課題への対応方針
1.)意識不明・自己判断不能患者に対する対応方針
- 家族など適切な代理人がいる場合は、その代理人の推定意思を尊重し、患者にとっての最善の方針をとることを基本として合意を得る。
- 適切な代理人がいない場合は、主治医を含む2者または3者の合議の上で、患者にとっての最善の方針をとることを基本として、臨床倫理の基本方針に則り判断する。
2.)心肺蘇生術を行わない指示について
心肺蘇生の有効性と予想される結果について患者や家族に十分に説明し、理解と合意を得ることを前提とする。その上で、以下の原則に則り判断する。
- 患者が意思表示できる間に、蘇生に対する希望を確認し、それを尊重する。
- 患者の意思を確認できない場合で、家族が患者の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とする。
- 家族が患者の意思を推定できない場合には、患者にとって何が最善であるかについて家族と十分に話し合い、患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とする。
- 家族がいない場合および家族が判断を当院に委ねる場合には、患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とする。
3.)輸血拒否患者への対応について
- 予め治療の過程のなかで輸血を行う可能性のある手術、処置、検査等が必要と考えられる患者については、時間的余裕がある限り他院での治療を勧め、当院では診療を行わない。
- 診療を行っていた場合でも、治療の過程で輸血を行う可能性が有ると判断した場合には、その時点で他院への受診を勧める。(事前に主治医より説明する。)
- 当院の基本方針について、患者の納得が得られない場合は、診療情報提供書を作成し、患者の希望がかなう病院での診療を勧める。
- 無輸血の予定で手術中、予期せぬ多量出血で救命のために、輸血が必要と判断した場合、執刀医の判断で輸血を行うこととする。
- 以上の立場から、患者本人や家族から提出された「輸血謝絶兼免責証明書」は受け取らない。患者及び家族との話し合いや診療の状況の記録はすべて診療録に記載する。
4.)人生の最終段階における医療について
人生の最終段階とは、妥当な医療の継続にも関わらず、死が間近に迫っている状況を指す。その判断は、主治医と主治医以外の複数の医師により、客観的な情報を基に行われる必要がある。
医療については、厚労省の「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン(2015)」を参考にして行う。
すなわち、
- 医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて患者が医療従事者と話し合いを行い、患者本人による決定を基本としたうえで、人生の最終段階における医療を進めることが、重要な原則である。
- 人生の最終段階における医療における医療行為の開始・不開始、医療内容の変更、医療行為の中止等は、多専門職種の医療従事者から構成される医療・ケアチームによって、医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断すべきである。
- 医療・ケアチームにより可能な限り疼痛やその他の不快な症状を十分に緩和し、患者・家族の精神的・社会的な援助も含めた総合的な医療及びケアを行うことが必要である。
5.)検査・治療・入退院の拒否、指示不履行について
医療行為によって生ずる負担と利益の説明に努め、その上で望まない医療行為を患者が拒否できる権利を認める。ただし、感染症法などに基づき、医療行為の拒否は制限される場合があることに注意する。
6.)退院の拒否および強制退院について
一般的に医師が入院治療を必要としないという診断を行い、診断に基づき患者に対して退院すべき旨の意思表示があった時は、特段の理由が認められない限り入院診療契約は終了すると考えられているので、医師は退院を拒否する患者および家族に対しても退院の方針を説明する。なお、患者の問題行動が病院の秩序に著しく支障を及ぼすと考えられる場合や威力業務妨害や脅迫、暴行などの犯罪行為に関係すると思われる場合は、診療を拒否しうる正当な理由になると考えられ、院長が強制退院を勧告できる。